
「うちの自治体では選挙公報を新聞折込で配布しているけれど、新聞をとっていない家には届かないのでどうすればいい?」
「選挙公報を新聞折込にしている自治体はどれくらいあるだろう?新聞折込以外ではどんな方法をとっているの?」
そんな疑問をや悩みを抱いている人も多いのではないでしょうか。
以前は選挙公報を新聞折込で配布する自治体が多かったのですが、最近では約25%の自治体で行われています。
近年では新聞購読率がどんどん下がっているため、「選挙公報が届かない」という家が増えていることが問題視されているようです。
そこで郵送やポスティング、シルバー人材を活用した配布など、新たな試みも行われています。
それを踏まえてこの記事では、
◾️新聞折込による選挙公報配布の現状
をデータをまじえて分析していきます。
また、
◾️選挙公報の新聞折込に関する2つの問題点
◾️選挙公報を新聞折込以外で配布する方法
についても解説します。
これを最後まで読めば、選挙公報と新聞折込について多角的に理解できるでしょう。
目次
1. 新聞折込による選挙公報配布の現状
選挙公報は、有権者が選挙の候補者について知るための重要な情報であり、有権者全員が手にする権利のあるものです。
では現在、選挙公報の配布はどのように行われているのでしょうか?
新聞折込を利用している例はどの程度あるのでしょう?
選挙公報を新聞折込で配布する実態を、統計から見ていきましょう。
1-1. 選挙公報の配布に新聞折込を利用している自治体は約25%
総務省「投票環境の向上方策等に関する研究会」がまとめた「投票環境の向上方策等に関する研究会報告」によると、平成29年衆院選(小選挙区)で選挙公報の配布に新聞折込を利用した自治体は25%以上ありました。
【平成29年衆院選における選挙公報の配布等の状況】
出典:総務省・投票環境の向上方策等に関する研究会「投票環境の向上方策等に関する研究会報告」
つまり、4分の1の自治体が新聞折込を利用していることがわかります。
が、この調査は複数回答なので、配布方法としては新聞折込は第3位です。
それより多い約50%の自治体が「自治会に依頼」して配布してもらっており、31%は「郵便等」を利用しているのが現状です。
ちなみに候補者の選挙公報自体は、有権者に本当に必要とされているのでしょうか?
総務省・明るい選挙推進協会による「第18回 統一地方選挙全国意識調査」(平成28年2月)では、政党や候補者の情報について「見聞きしたもの」「役に立ったもの」を有権者に質問しています。
その結果は以下のようになりました。
【選挙運動等への接触度と有効度】
◾️見聞きしたもの
1)候補者のポスター 49.4%
2)街頭演説 36.5%
3)連呼 30.2%
4)選挙公報 25.8%
5)候補者の葉書 21.6%
◾️役に立ったもの
1)選挙公報 17.3%
2)街頭演説 11.8%
3)候補者のポスター 9.9%
4)テレビ政見放送 8.8%
5)候補者の新聞広告 7.4%
出典:総務省・明るい選挙推進協会「第18回 統一地方選挙全国意識調査」(平成28年2月)
選挙公報を目にした人は有権者の25%=4分の1しかいないのに、それが投票の役に立ったという人は17%以上もいるのです。
つまり選挙公報は、ポスターや街頭演説などと比べて目にする機会は少ないにもかかわらず、もっとも求められている重要な情報だというわけです。
1-2. 近年では郵送やポスティングの全戸配布が増加中
実は、選挙公報を新聞折込で配布する自治体は減ってきていると言われています。
というのも、近年では新聞の購読率がどんどん低下しており、折込に頼っていると選挙公報を受け取れない世帯が多数に上ってしまうためです。
一説には、新聞折込でカバーできるのは全世帯の6割程度、つまり選挙公報に新聞折込を利用しても、4割の世帯には届けられません。
これは大きな問題です。
というのも、有権者は選挙の候補者に関する情報を知る権利があり、それが掲載された選挙公報はすべての有権者のもとに届けられなければならないことが法律や条例で定められているからです。
以下のような条文があります。
第百七十条
選挙公報は、都道府県の選挙管理委員会の定めるところにより、市町村の選挙管理委員会が、当該選挙に用うべき選挙人名簿に登録された者の属する各世帯に対して、選挙の期日前二日までに、配布するものとする。ただし、第百十九条第一項又は第二項の規定により同時に選挙を行う場合においては、第百七十二条の二の規定による条例の定める期日までに、配布するものとする。
2 市町村の選挙管理委員会は、前項の各世帯に選挙公報を配布することが困難であると認められる特別の事情があるときは、あらかじめ、都道府県の選挙管理委員会に届け出て、選挙公報につき、同項の規定により配布すべき日までに新聞折込みその他これに準ずる方法による配布を行うことによつて、同項の規定による配布に代えることができる。この場合においては、当該市町村の選挙管理委員会は、市役所、町村役場その他適当な場所に選挙公報を備え置く等当該方法による選挙公報の配布を補完する措置を講ずることにより、選挙人が選挙公報を容易に入手することができるよう努めなければならない。
第五条
選挙公報は、委員会の定めるところにより、区市町村の選挙管理委員会が、当該選挙に用うべき選挙人名簿に登録された者の属する各世帯に対して、選挙の期日前日までに、配布するものとする。
2 区市町村の選挙管理委員会は、前項の各世帯に選挙公報を配布することが困難であると認められる特別の事情があるときは、あらかじめ、委員会に届け出て、選挙公報につき、同項の規定により配布すべき日までに新聞折込みその他これに準ずる方法による配布を行うことによつて、同項の規定による配布に代えることができる。この場合においては、当該区市町村の選挙管理委員会は、区役所、市役所、町村役場その他適当な場所に選挙公報を備え置く等当該方法による選挙公報の配布を補完する措置を講ずることにより、選挙人が選挙公報を容易に入手することができるよう努めなければならない。
つまり、原則的には選挙公報は全戸配布でなければならないのです。
ただし、もし全戸配布が「困難であると認められる特別の事情があるとき」に限っては、新聞折込その他の方法で配布することを認める、という条文もあります。
それを根拠として、各自治体はこれまで新聞折込に配布を頼ってきました。
というのも、全戸配布には人手と時間とコストがかかり、新聞折込ならそれらのリソースを節約できるからです。
とはいえ、選挙公報を新聞折込で配布するのは当たり前のことではなく、一種の緊急避難的な措置にすぎないわけです。
その方法ではすべての有権者には行き渡らないのであれば、自治体は全戸配布できるように改善しなければなりません。
そこで近年では全戸配布に本格的に取り組む自治体も増えてきました。
コストが数倍になっても郵送やポスティングなどを利用したり、シルバー人材などを活用したりすることで対応するケースが多いようです。
ちなみに、東京23区の配布方法を調べてみると、以下のようになっています。
【東京23区の選挙公報配布方法】
区 |
配布方法 |
千代田区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
中央区 |
◎朝日、産経、東京、日本経済、毎日、読売の6紙に折り込んで配布 |
港区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
新宿区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
文京区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
台東区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
墨田区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
江東区 |
◎全戸配布(配布方法は不明) |
品川区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
目黒区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
大田区 |
◎新聞折込(朝日、産経、東京、日本経済、毎日、読売の一般紙6紙)で配布◎区の施設や民間の協力施設(ファミリーマート、公衆浴場、新聞販売店店頭、JR蒲田駅及び大森駅、東急蒲田駅、京急蒲田駅など)において配布 |
世田谷区 |
(令和元年参議院議員選挙の場合) |
渋谷区 |
◎各世帯に配布(配布方法は不明) |
中野区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
杉並区 |
◎各世帯の郵便受けに直接配布(配布方法は不明) |
豊島区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
北区 |
(平成31年北区議会議員選挙・北区長選挙) |
荒川区 |
◎各戸配布(配布方法は不明) |
板橋区 |
◎区内の全世帯へ各戸配布(配布方法は不明) |
練馬区 |
◎区内の全世帯に各戸配布(配布方法は不明) |
足立区 |
(平成31年足立区議会議員選挙・足立区長選挙) |
葛飾区 |
(平成29年衆議院議員選挙の場合) |
江戸川区 |
不明 |
※区のHP、区選挙管理委員会HPの記載をもとに作成
※配布方法について区の決まりがあればそれを記載
※区の決まりが特に見当たらない場合は、「1-1 選挙公報の配布に新聞折込を利用している自治体は約25%」で引用した総務省・投票環境の向上方策等に関する研究会「投票環境の向上方策等に関する研究会報告」のデータに合わせて平成29年衆院選の際の配布方法を記載
※平成29年衆院選の際の配布方法もわからない場合は、直近の別の選挙での配布方法を記載
※選挙公報のHP掲載は、区独自で行なっている場合のみ記載(「都の選挙管理委員会HPでもご覧になれます」という場合は省略)
東京23区では、新聞折込を行なっているのは中央区、港区、大田区の3区だけでした。(江戸川区は不明)
多くの自治体では何らかの方法で各戸配布を実施し、さらにその補完として、
◎人の出入りが多い施設に選挙公報を置いて自由に持っていけるようにする
◎住民から個別に要望があれば郵送する
などの対応を講じています。
2. 選挙公報の新聞折込に関する2つの問題点
これまで選挙公報を配布する手段の中心として利用されてきた新聞折込ですが、「全戸配布」という目的に対してはその達成を難しくしている原因があります。
新聞折込の何がいけないのか、時代の変化にともなって浮き彫りになってきたふたつの問題点に着目して解説していきましょう。
2-1. 新聞を購読していない住民には届かない
1章でも触れましたが、最大の問題は新聞購読率の低下です。
総務省の「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、「新聞行為者」(新聞を読んでいる人)の年代別割合は以下のようになっています。
《平成30年度 新聞行為者率(年代別)》
10代:2.5%
20代:5.3%
30代:13.0%
40代:23.1%
50代:43.9%
60代:52.8%
高齢者でも半数、20代以下に至ってはひと桁%しか新聞を読んでいません。
これでは選挙公報を新聞折込していても、手元に届かない有権者が過半数を大きく超えることが予想されますよね。
一方で、インターネットやスマートフォンの利用率は高齢者の間でもどんどん上昇しています。
総務省「平成30年版 情報通信白書」に以下のようなデータがあります。
◾️インターネット利用者の割合
60〜69歳 73.9%
70〜79歳 46.7%
80歳以上 20.1%
◾️スマートフォンの保有率
60〜69歳 44.6%
70〜79歳 18.8%
80歳以上 6.1%
60代はすでに新聞よりもインターネットを利用する人の方が多くなっていることがわかりますよね。
こういったネットの普及を踏まえると、新聞購読率が再び上昇する可能性はあまり期待できないでしょう。
これからは選挙公報も新聞折込ではなく、各自治体のホームページでの閲覧が中心になっていくかもしれません。
2-2. 公共施設に設置しても手にできない住民が多い
新聞を購読していない人向けの対策として、選挙公報を公共施設や人が多く集まる場所に設置して、自由に持っていけるようにしている自治体も多くあります。
役所や図書館、地域センター、児童館といった公共の施設だけでなく、民間施設に置く試みも広がっています。
具体的には、
◎コンビニエンスストア
◎ドラッグストア
◎大型スーパー
などの例があります。
が、それでも以下のような事情で手にすることができない有権者は多いのです。
◾️住んでいる場所が過疎地なため、設置されている施設まで時間がかかる・交通手段が少ない◾️多忙でわざわざ設置場所を調べて取りに行くことができない
◾️いつどこに設置されているかという情報を目にすることがないまま、投票日を迎えてしまった
有権者としては、選挙公報は当然受け取るべき権利があるものなので、「自分からわざわざ取りに行くのではなく、やはり自治体が責任を持ってこちらに届けて欲しい」という意識を持っている人もいるようで、設置型配布では新聞折込を完全に補完することはできないのが実情です。
3. 選挙公報を新聞折込以外で配布する方法
選挙公報を新聞折込で配布することは、いまや時代にそぐわなくなってきていることがわかりました。
では、新聞折込以外にはどんな配布方法が考えられるでしょうか?
その代替案について検討してみましょう。
3-1. 郵送による全戸配布
もっとも確実なのは、郵便制度を利用することでしょう。
どんな過疎地であっても郵便は配達されるよう、すでに仕組みが確立されていますので、これを活用しない手はありません。
ただ問題なのはコストです。
新聞折込であれば1枚あたり3円前後で収まるのに対して、郵便局の「配達地域指定冊子小包郵便物」を利用した場合でも1通あたり29円(〜25g)と10倍近くかかります。
自治体としてこの予算をとれるのであれば、郵送は100%全戸配布を実現できる方法と言えるでしょう。
3-2. ポスティングによる全戸配布
次に、民間のポスティング業者を利用する方法が考えられます。
ポスティング料金は地域や配布枚数などによって幅がありますが、おおむね1部あたり3〜8円程度ですので、郵送よりははるかにコストを抑えられます。
とはいえこの方法にもいくつか問題があります。
まずひとつは、「チラシお断り」のポストには配布できないことです。
ポスティング業者は「チラシお断り」の掲示がある戸建やマンション、配布したらクレームが来る家を常日頃から把握しています。
トラブルを避けるため、そういうポストには配布しないという業者が多いのです。
となると、全戸配布は難しくなります。
実際、ポスティングできる率は指定エリアによって異なりますが、平均すると8割程度と言われているのが現状です。
特に近年では、タワーマンションなどの高級物件がまるまる「ポスティング禁止」を掲げている例が増えているようで、その場合数百件の未配布が出てしまうのが課題となっています。
もうひとつ、ポスティングが抱える根深い問題があります。
それは、配布スタッフが担当エリア全戸に配らずごまかすなどの不正を行うリスクです。
ポスティングというのは配布スタッフからするとなかなかハードな仕事です。
1件1件歩いて回らなければならないのはもちろん、投函も適当にはできません。
配布物がヨレたりはみ出したりしないよう、ていねいに投函することが求められます。
また、配布中に不審がられたりクレームを言われたり、ときには罵倒されることもあるでしょう。
そこで質の悪い配布スタッフの場合、そのつらさを回避するため、
- 担当の配布エリアの一部にしか配らず、残った配布物を捨ててしまって「全戸配布した」とウソをつく
- 1件に2枚ずつ配り、配布する件数を少なくして「全部配った」とごまかす
などの不正をするケースがあるのです。
もちろんポスティング業者の方でも、スタッフの不正が発生しないように、スタッフ教育を徹底したり、GPSを持たせて行動を管理するなどさまざまな対策を講じています。
選挙公報をポスティング業者に依頼するのであれば、スタッフ管理に力を入れていて信頼できる業者を慎重に選ぶことが重要になるでしょう。
3-3. 自治会による配布
「1-1. 選挙公報の配布に新聞折込を利用している自治体は約25%」で引用した総務省「投票環境の向上方策等に関する研究会」による「投票環境の向上方策等に関する研究会報告」では、平成29年衆院選(小選挙区)でもっとも多く用いられた選挙公報配布方法は「自治会に依頼する」ことで、実に49.7%の自治体が実施していました。
これは、選挙公報を地域の町会やマンション自治会などにまとめて預け、そこから各会員家庭に配布してもらうという方法です。
これなら配布漏れもなく全戸に行き渡らせることができる上、コストも低く抑えられるという利点があります。
ただ、この方法では自治会長など配布を担当する住民に負担をかけてしまいます。
自治会に依頼するにあたっては、自治体から自治会・町会に依託金を支払うケースもあるようですが、それは基本的に自治会費として使われ、個人に支払われるものではないでしょう。
配布する人たちは実質的にボランティアと変わりません。
特に選挙期間が短い場合や、選挙公報がギリギリまで出来上がらず短時間で配布しなければならない場合などは、住民が生活時間を犠牲にして配布に当てざるを得ないという恐れもあります。
有権者にとって権利も義務も平等であるべき選挙という制度において、特定の有権者だけに負担を強いる仕組みに依存していてよいのだろうか、というのは大きな問題です。
また、自治会自体にも「会費が高い」「必要ない」などの理由で加入しない家庭が増え、「自治会不要論」も各所で持ち上がっています。
この配布方法をこのまま続けられるのか、続けていていいのかという点には、まだまだ議論の余地があるでしょう。
3-4. その他
ここまで挙げた以外にも、選挙公報を配布する方法はあります。
例えば、自治体が直接委託して自治体広報誌などを配布してもらう「広報配布員」を設けている場合には、その人たちに選挙公報の配布を依頼するなどです。
中でも最近注目されているのが、シルバー人材の活用です。
シルバー人材センターは、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づき、区市町村ごとに設置されている公益社団法人です。
軽作業など高齢者が働きやすい仕事の依頼を受けて、会員に委託しています。
選挙公報の配布をシルバー人材に依頼することは、地域の高齢者に働く場を提供することにもつながり、自治体としては一石二鳥だと言えるでしょう。
まとめ
いかがでしょうか?
選挙公報を新聞折込することの問題点や、代替案などがよくわかったことと思います。
では最後に、この記事の内容を振り返ってみましょう。
◾️選挙公報の配布に新聞折込を利用している自治体は約25%
◾️近年では郵送やポスティングの全戸配布が増加中
◾️選挙公報の新聞折込に関する2つの問題点は、
◎新聞を購読していない住民には届かない
◎公共施設に設置しても手にできない住民が多い
◾️選挙公報を新聞折込以外で配布する方法は、
◎郵送による全戸配布
◎ポスティングによる全戸配布
◎自治会による配布
あなたの自治体が選挙公報を正しく全戸配布できるようになることを願っています!