<2020年5月に最新事例を含めて追記しました。>
昨今、戦略的に情報発信を行う自治体が増えており、今後ますますこうした戦略的広報が求められるといわれています。その理由として、自治体が抱える3つの課題が挙げられます。
①地方分権により地域間の競争が激化し、差別化しないと生き残れない
②自治体が財政難に陥っており、外への情報発信が必要となった
③自治体のブランド化が増えており、戦略的な情報発信をしないと売り出せない
自治体が抱えるこうした3つの課題を解決する共通の方法が、「戦略的な情報発信」です。
例えば、地方間の競争が激化しているのに何もしなければ、住民が別の魅力的な自治体に移住してしまったり、観光客が別の自治体に旅行先を変えてしまったりする可能性があります。
どのような自治体も情報発信に力を入れている時代だからこそ、住民はもちろん、外の地域の人達にもしっかり届く戦略的な情報発信をしていかなければなりません。
この記事では、慣れない担当者でも魅力的な情報発信を戦略的にできるよう、以下を丁寧に解説していきます。
<この記事を読んで分かること>
◆まずは事例を知る◆
戦略的な自治体の情報発信事例7選
(神奈川県川崎市、島根県、東京都杉並区、岡山県、東京都立川市、宮崎県小林市、神奈川県葉山町)
◆成功の秘訣は?◆
好事例に共通する3つの特徴を知る
◆どうすれば上手くいくか◆
戦略的な情報発信をするための3つの実施ポイント
◆時間・コストをかけても今やるべき理由◆
戦略的な情報発信が必要とされる背景・理由
自治体の戦略的な情報発信を今すぐスタートさせたい方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
目次
1. 成功している自治体に学ぶ!戦略的な情報発信の好事例7選
早速、戦略的な情報発信ができている自治体の好事例をを7つご紹介します。
1-1. 神奈川県川崎市:体外的なイメージの悪さを大きく改善した情報発信の事例
神奈川県川崎市は公害などの歴史的背景から、住民や隣接地域の住民からの印象がよくないことが課題でした。
そこで、川崎市の魅力や現在の姿を戦略的に発信しイメージアップを図るという目的で2005年3月に「シティーセールス戦略プラン」を作成し実行することに。
このプランの目標として掲げたのは以下の3点でした。
①対外的な認知度やイメージの向上
②市民による川崎市の魅力の再発見、市民としての誇りや一体感の醸成
③川崎ならではの魅力や活力の創出
を掲げています。まずは、市民が「川崎市とはどのような町なのか」語れるように、地域の魅力を積極的に発信浸透させていくことに力を注ぎました。川崎市が発行している出版物だけでも下記の種類があり、それぞれ目的に合わせて使い分けているそうです。
出版物 |
内容 |
目的 |
発行回数 |
かわさき市政だより |
市政全般に関する情報を全世帯配布 点字版と録音版も用意 |
川崎市の魅力、市政の浸透 |
月2回 |
市民グラフかわさき 「ひろば」 |
1年の出来事を冊子にして配っている |
多彩な魅力を知ってもらう |
年1回 |
City of Kawasaki |
市政のあらましについて解説 |
市内、市外でのイベントなどで配布し川崎市について知ってもらう |
年1回 |
市民便利帳 かわさき生活ガイド |
川崎市の施設や手続き方法を紹介 |
川崎市の住みやすさを促進 |
年1回 |
情報発信時はただ単に大量の情報発信を発信するのではなく、
①川崎市には多彩な魅力があることを知ってもらうために「文化芸術」「スポーツ」「自然」「生活」と情報の分類分けをしたうえで発信。また、各分野を連携させることでより価値が生まれるようにする。
②伝えたいことを明確化するために統一感のある「ブランドメッセージ」を合わせて発信
例:「音楽のまち」「スポーツのまち」などブランドメッセージを作るときには市民にも参加してもらい、主体性を出す。
という2つのことを大切にし、どのように情報発信をすべきか明確にしています。
また、川崎市の情報発信戦略の見習うべきは、成果指標をしっかり測定しているところです。指標を定めて行う「定量的評価」とアンケートやインタビューなどの「定性的評価」を行い、達成率を明確にし課題を認識しながら取り組みを続けています。
このような細やかな戦略の甲斐もあり、下記のような結果につながっています。とくに、対外的なイメージは、10年で26%から54%にまで回復。目的が明確な戦略を立てて取り組むことで、市のイメージを回復した好事例だと言えるでしょう。
【川崎市のシティセールス戦略プランの成果】 ①対外的な認知度やイメージの向上 ②市民による川崎市の魅力の再発見、市民としての誇りや一体感の醸成 ③川崎ならではの魅力や活力の創出 |
川崎市はその後もさらなる地域の魅力を内外に周知するべく、数々の施策を戦略的に行い情報発信を行っています(2020年現在)。
内容 | |
---|---|
川崎市都市ブランド推進事業 | 地域の魅力づくりや地域ならではの未了発掘につながる事業を推進 |
川崎市イメージアップ事業 | 都市イメージを図るための事業を市民・事業者・団体などから募集し、審査のうえ認定 |
広報チャネルの拡充 | 市政だより、海外への情報発信、かわさきアプリ、冊子類、広報テレビ番組、広報ラジオ番組、プロモーション映像、街中ビジョンでの広報、メールニュースかわさき、サンキューコールかわさき、ソーシャルメディア(Twitter、Facebook、Instagram、YouTube)等 |
参考:川崎市公式サイト
川崎市シティプロモーション戦略プランの概要
メディアを活用した効果的な広報戦略
1-2. 島根県:若年層に向けて戦略的にSNSを活用した情報発信の事例
島根県では「顔が見えて共感でき、身近に感じられる情報発信」を掲げて、戦略的な情報発信を検討することにしたそうです。
この背景には2011年の島根県政世論調査で「島根県の広報活動に満足していますか?」という問いに対し、「満足している」が8%、「どちらかと言えば満足している」が48.8%という残念な結果になったことが一因となっています。
この他にも「若年層への広報活動効果が薄い」「ホームページが閲覧されていない」などの課題を抱えていました。
そこで、若い世代が利用しているSNSの活用を検討。ただSNSを使うだけでなく「SNSの特色を活かし、他の媒体と異なる情報発信を発信する」と念頭に置いて戦略を考えました。
2014年より島根県のFacebookを開始。写真やイメージキャラクターを利用しながら、観光やイベント情報、県産品などを戦略的に発信することで島根ブランドの拡散を狙いました。
しかし、運用を始めてみると職員の知識や理解に差があり、戦略的な効果ができる以前のところで止まっているのではないかという意見が。そこで2017年には職員の意識向上のためのセミナーを実施し、広報に対する知識やマインドの強化を実施しています。
ただ単に「SNSをスタート」させるだけでなく
①SNSを使用する目的を明確にし、目的に沿った運用
②SNS運用に合わせて職員への教育も実施
というステップを踏んで、戦略的な情報発信ができるよう基盤を整えました。
その後、2019年には島根県立大学の学生を「島根県SNS観光PR大使」として任命し、若い世代が県内のオススメスポットや地元グルメを取材する試みを始めました。学生たちが取材した内容は、観光振興課の公式SNS(フェイスブック、インスタグラム、ツイッター)や観光ホームページ「しまね観光ナビ」に掲載されています。
島根県観光振興課 Facebook/Instagram/Twitter
「ご縁の国しまね」と名づけられた島根県の公式Instagramアカウントは、フォロワー数1万人を超えています。
参考:しまねの広報力アップ
平成23年島根県政世論調査
島根県公式サイト
SNSを活用した情報発信 政策提言
1-3. 東京都杉並区:住民の行動変化を視野にいれた戦略的に情報発信した事例
東京都杉並区では「情報発信をしても住民に思うように伝わっていない」という課題を抱えていました。
そこで、住民にとって分かりやすい戦略的な情報発信をし、認知度の向上、最終的には住民の行動変化につながるようにとさまざまな方法を検討したそうです。
まずは、それまで行っていた広報活動を見直し、改善しました。
媒体 |
課題 |
実施したこと |
広報紙 |
認知獲得に重きを置いた情報発信 |
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SNS |
公式Twitterのみとなっている |
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動画 |
広報紙の内容を中心に、より分かりやすく伝えたい |
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ホームページ |
住民が知りたい情報に簡易にアクセスできるようにしたい |
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ポスター・チラシ |
戦略を明確に伝わる情報発信ツールにしたい |
|
すべての情報発信方法を見直し課題を明確化することで、住民に伝わることを意識した情報発信ができるよう具体的な行動へと移りました。とくに、広報紙は発行回数を減ら業務委託をすることで、クオリティをアップさせ手に取ってもらえるように配慮したとのこと。
戦略的な広報を継続的に行えるよう、情報発信をする仕組みにもメスを入れていきました。情報発信の方法や重要性は広報課は理解していても、その他の課まで同じように理解しているとは限りません。
そこで、広報課が主導になり広報活動が強化できるよう「伝わる広報シート」の導入を検討することに。
伝わる広報シート」は
①ターゲットに情報を知ってもらう
②ターゲットに「自分ごととして」捉えてもらう
③ターゲットに詳しい情報を調べてもらう
④ターゲットに詳しく正確な情報を提供する
⑤ターゲットに行動に移してもらう
という6つのステップに従って、使用する情報発信方法と仕掛け、目的が書き込めるようになっています。このシートを使うことで、ターゲットと目的を絞り、行動を意識した戦略が自然とできるようになるのです。
伝わる広報シートを導入するにあたり、各課よりPRリーダーを選出して伝わるシートの使い方のレクチャーやチェックをできるようにしているところもポイントです。
戦略的に情報発信をするためツールを見直すのはもちろんのこと、継続的に実施するための仕組み作りまで行った好事例です。
参考:杉並区広報戦略
1-4. 岡山県:インバウンドを呼び込むために戦略的に情報発信をした事例
インバウンドとは、外国人が日本に訪れることを目的とし、観光誘致や地域ブランド化を目標に掲げている自治体にとって重要な項目の一つです。
岡山県は独自の調査で、岡山県を選ぶ外国人は比較的長期間滞在し、個人で宿や宿泊券を手配しているリピーター傾向が強いことが分かりました。そこで、ガイドのいない個人旅行でも外国人が行動しやすくなることを課題とし、まずは多言語で情報を伝えられる状態を整えたそうです。
2018年には、無料で24時間利用できる多言語コールセンターをスタート。チラシを作り宿泊施設や観光施設に配布し、普及を促しています。
出典:岡山県公式サイト
外国人に対する情報発信方法を用意しただけでなく、それを活用できる施設が増えるよう工夫しているところが特徴です。
災害などの万が一のときに備えて外国人旅行者が安心して観光できるよう、外国人旅行者向けの専用カードを作成し配布する試みも始めています。
出典:岡山県公式サイト
このように、インバウンドを目的に掲げ他の県よりも一歩進んだ戦略的な情報発信をしていくことが、2013年より年々外国人観光客が増加するという結果につながっています。
出典:平成30年度岡山県外国人旅行者宿泊者数が過去最高を記録しました!
参考:岡山県公式サイト
2018岡山のインバウンド観光動向
1-5. 東京都立川市:若い女性を起用してターゲットに情報発信をしている事例
立川市は2014年より、大がかりな広報や観光プロモーションの見直しを行ってきました。2016年には下記の4つを取り組み方針として定め、具体的に情報発信の方法を見直すことに。
【立川市のシティプロモーション取り組み方針】 ①分かりやすく伝えるプロモーション |
主に見直した情報発信ツールは、下記の4つです。
情報発信ツール |
目的 |
戦略ポイント |
ポスター・チラシ |
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フリーマガジン |
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プレスリリース 市長の定例記者会見 |
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フリーマガジンでは「新しい魅力を作るプロモーション」として広報紙と差別化し、今後の立川を担う25歳~39歳前後の女性をターゲットとしたおしゃれな紙面づくりを行っているとのこと。
また、情報発信では情報に興味を持ち行動してもらうことも大切にしており、現在の情報発信方法が住民や対外への行動につながっているのか確認するために
①外部との連携により定量的評価を行う
②1年に1回市内在住者にアンケートを実施
③市外を対象にWebアンケートを実施
④毎月簡単なアンケートに答えてもらうシティプロモーションモニターの設置
という効果測定も取り入れています。
1-6. 宮崎県小林市:PR動画が大ヒットして移住相談件数が増えた情報発信の事例
YouTube動画を活用したPR動画を活用する自治体も増えています。その中でも有名な事例が、宮崎県小林市の移住促進PRムービーです。
宮崎県小林市は、てなんど小林プロジェクト(「小林ならでは」を発信するプロジェクト)の一環として、2015年に小林市PRムービー第1弾「移住促進PRムービー“ンダモシタン小林”」を公開しました。
小林市の風景の美しさ、そして人の温かさなどが伝わってくる印象的な動画です。さらに見終わった後に思わず二度見してしまう仕掛けが話題となり、多くのSNSでシェアされました。公開されてから2週間で動画再生数120万回を超え、新聞・雑誌・テレビなど多くの取材が相次いだそうです。
YouTube動画を用いたこの情報発信の効果は凄まじいもので、移住相談件数は約2倍に増え、ふるさと納税額はなんと1億3000万円から7億2000万円に増加しました。
移住者を増やすために制作された動画ですが、住民や出身者が小林市の魅力を再確認するきっかけにも大いに寄与した事例といえるでしょう。
参考:小林市ホームページ
小林市広報紙
電通報/「関係人口」という地方創生のヒント
てなんど小林プロジェクト「ンダモシタン」
1-7. 神奈川県葉山町:Instagramで異例の3万フォロワーを獲得し情報発信している事例
次々と新しい情報発信のツールが増える中、写真で魅せるアプリ「Instagram(インスタグラム)」で成功している自治体が神奈川県葉山町です。自治体の公式アカウントとしては異例の3万人を超えるフォロワー数を獲得しています。
葉山町は町の人口が約3.3万人と、決して大きな自治体ではありませんが、人口とほぼ同じぐらいの人数がInstagramアカウントをフォローしていることになります。
【葉山町がInstagramでの情報発信戦略を成功させた秘訣】
- 若い人に自治体の魅力を発信するため、若い人が集まるInstagramに注力を行った
- 移住促進という目的のために、美しい海や森、マリンスポーツ、グルメの写真でイメージアップを図っている
高齢化が進んでいる葉山町では、若い世代の移住と定住促進のため、若い人にターゲットを絞って情報発信を行っているのです。大学進学や就職で町を出て行った住民が、出産や転職を機に町へ戻る選択肢を持ってもらうために始めたそうです。
Instagramは若い世代が使っているアプリなので、上手く活用すれば若年層に自治体の魅力を発信できます。さらに写真がメインのコンテンツとなるため、文字で伝えるよりも、地域の空気感や臨場感などが伝わりやすいメリットもあります。
葉山町では、公式Instagramの他、広報紙「広報葉山」や、葉山の魅力発信・観光サイト「はやまLife」、YouTube公式アカウントなどで、戦略的な情報発信を続けています。
参考:日経BP総合研究所「人が集まる自治体SNS、葉山町の公式インスタグラムに学ぶ10カ条」
2. 戦略的な情報発信を成功させる秘訣は?好事例に共通する3つの特徴
第1章で戦略的に情報発信をしている7つの事例をご紹介しましたが、事例を取り入れる際に参考にしたい共通点としては次の3つがあります。
2-1. 目的を明確にして情報発信方法を考える
自治体の情報発信は「質より量」になってしまうと、手間ばかりがかかり重要な効果を実感することができません。「量より質」を大切にし、目的を明確にすることが大切です。
実際に7つの事例では、下記のように目的をしっかり設定した上で情報発信に取り組んでいました。
自治体 |
情報発信の目的 |
神奈川県川崎市 |
市の魅力や今の姿を発信し、イメージアップをしたい |
島根県 |
顔が見えて共感でき、身近に感じられる情報発信 |
東京都杉並区 |
発信する情報の認知度向上、最終的には住民の行動変化につなげる |
岡山県 |
インバウンドを目的に、ガイドのいない個人旅行でも外国人が行動しやすくなるようにしたい |
東京都立川市 |
情報に興味を持ってもらい、行動につなげる |
宮崎県小林市 |
定住人口を増やすための移住・定住者を増やす |
神奈川県葉山町 |
若い人に興味を持ってもらい、若い世代の移住と定住を進める |
事例からも分かるように、まずは「なぜ情報発信をするのか」を明確にしてから、どのような情報発信方法が向いているのかを検討することが大切です。
戦略的な情報発信をするためのフローをまとめると、下記のようになります。
はじめに目的を明確にしておくことで「どのようなターゲットにアプローチをしたらいいのか」検討できるようになります。
ターゲットが分かると、SNSや広報紙、チラシといった有効な情報発信方法を検討しやすくなるでしょう。このように、ただ情報発信をするだけでなく「なぜ情報発信をするのか?」を念頭に置くことで、自然と戦略的な情報発信ができるようになります。
2-2. 効果測定を実施する
好事例の中では戦略的な情報発信をするだけで終わるのではなく「どのような効果を出しているのか」「行動や好感度アップにつながっているのか」チェックする、効果測定をしている自治体が目立ちました。
効果測定では、下記の「定量的評価」と「定性的評価」の2つの方法が多く用いられます。
評価方法 |
概要 |
方法 |
定量的評価 |
数値を算出して評価をする方法。 |
|
定性的評価 |
数値化できない生の声や意見を拾うことで、傾向や状況を把握する |
|
定量的評価は「このチラシを見て実際に足を運んだ」などの質問項目を5段階評価などで数値化し、数字を基に戦略的な情報発信の効果を測定する方法です。
一度基準となる数値を決めれば平等な評価ができ、実施前と実施後、去年と今年といった比較がしやすくなります。
一方で、定性的評価は数値にできない実際の声や感想から、どのような反応があったのか傾向を把握できる方法です。アンケートの自由記述欄や意見交換会などがこれにあたります。
このような評価方法を使い「今回の情報発信はどうだったのか」チェックをする習慣をつけることで、課題が見つけやすくなりより精度の高い方法で戦略的な情報発信ができるようになるでしょう。
2-3. 外部の視点を入れる
日々情報発信をしていると「この方法で本当に合っているのか」と迷う瞬間や「もっといい情報発信方法はないのか」と感じることがあるでしょう。
自治体で検討しても思うようなアイデアが思いつかない場合には、今までとは違う外部の視点を入れてみることも大切です。
【7つの事例から分かる外部の視点の取り入れた例】
|
知識を増やしたりクオリティをあげたりすることで解決できそうなら、職員や広報担当者向けにセミナーや勉強会を開催し、今までとは異なる考え方を補うのもいいでしょう。
広報紙やSNSでの情報発信など継続していかなければならないことは、プロに任せてみるのも一つの方法です。
また、今までとは違う視点を取り入れるという意味でアドバイザーや住民から意見を貰うと、思いもよらなかった方法に辿りつけるかもしれません。
このように、自治体内で情報発信を完結させるのではなく、外部の視点も取り入れることでニーズに合わせた情報発信ができるヒントが見つかるかもしれません。
3. 自治体が戦略的に情報発信を行うための3つの実施ポイント
ここでは、自治体が戦略的な情報発信をするために押さえておきたい3つのヒントをご紹介します。
3-1. 情報発信ツールのメリット、デメリットを把握し適切に使い分ける
戦略的な情報発信をするには、下記のような情報発信ツールのメリットとデメリットを把握しておかなければなりません。
例えば、地域の魅力をコンスタントに発信したいとなると「広報紙」や「SNS」、「動画」や「ラジオ」が当てはまるかと思います。
ターゲットや費用、運用方法を考えると、どの方法で情報発信をすべきか絞られてくるでしょう。
事前にデメリットを把握しておくことで、運用がうまくいかないといったトラブルなどを最小限にできます。情報化社会となりさまざまな情報発信ツールが使えるからこそ、計画的に使い分けることが戦略的な情報発信の重要なポイントとなります。
3-2. 継続的に情報発信し続けられる仕組みを作る
総務省の「地域における ICT 利活用の現状等に関する調査研究」のアンケートによると、SNSを利用している自治体の47.3%が1日に1回以上更新していることが分かりました。
出典:総務省「地域における ICT 利活用の現状等に関する調査研究」
継続的な情報発信をしていく必要があり、そのためには、仕組みやリソースを整えなければなりません。もちろん、SNS以外でも情報発信をしないといけないので、1ヶ月のうちにどのような業務があるのか下記のように書き出してみます。
情報発信ツール |
運用方法 |
---|---|
SNS |
毎日更新 |
広報紙 |
毎月1,15日発行 |
チラシ |
イベントチラシの作成 |
ラジオ |
毎週水曜収録 |
この業務をただこなすのではなく、継続し戦略的に行うにはスケジュール管理や役割分担が必要となります。
広報課のみで行うことが難しい場合には
①他の課の人にも協力してもらう(例:東京都杉並区の「伝わる広報シート」)
②業務委託を視野に入れる
③目的に合わせて成果を出せそうな戦略から始める
など、他部署との連携や業務委託を視野に入れながら継続できる状況を作りましょう。せっかく始めた情報発信も続けなければ、思ったように伝わりません。継続するからこそ少しずつ効果が実感できるものなので、継続できる仕組み作りも大切なポイントです。
3-3. ターゲットが求めている情報を提供する
住民が知りたい情報や興味を持つ情報と自治体が発信している情報に差があると、いくら戦略的に情報発信をしても思ったような効果が得られません。
これは、インバウンドや観光客をターゲットとしている場合でも同じで、欲しい情報や気になる情報との間に差があると情報を受け取ってもらえる可能性が低くなるでしょう。だからこそ、ターゲットが求めている情報を提供することが欠かせません。
第1章で紹介した岡山県の場合、「昨今日本では災害が増えており、外国人観光客が心配している側面がある」というニーズを捉えて、外国人旅行者向けの災害時に役立つ情報カードを作成し配布しています。
ターゲットが「あると嬉しい」「こういう情報が欲しかった」と感じる情報発信ができているため、好感度アップや認知度アップにつながっています。
神奈川県川崎市では「情報化を進めて欲しい項目」を住民にアンケートし、下記のような結果となりました。
住民のニーズを把握しながら情報発信をすることで興味を持ってもらいやすくなり、双方がコミュニケーションを取るきっかけにもなります。
一方的に情報発信をする「お知らせ型」ではなく、ターゲットが欲しい情報を把握し寄り添うことも、戦略的な広報の重要なポイントです。
4. 今なぜ自治体広報が必要なのか?戦略的な情報発信が重要な理由
これまで述べてきたように、今や自治体の戦略的な情報発信は欠かせません。最後に、なぜ自治体が戦略的に情報発信をしなければならないのか、その背景をご紹介します。
4-1. 地方分権により地域間の競争が激化
1993年からスタートした「地方分権」により、従来国が決めていたことを自治体が決められるようになりました。
地方分権とは簡単に言うと地域の魅力やニーズを活かし、自治体が自らまちづくりをしていくことです。従来は中央集権型の行政で全国一律の基準が基本となっていましたが地域のことを地域で決められるようになったため、より自由にまちづくりができるようになりました。
この反動で自治体同士での競争が激化しており、住民にとって「暮らしたくなる地域」「住み続けたくなる地域」でないと、生き残っていけません。
情報発信をしている自治体としていない自治体では、住民の愛着心や自治体に対する理解度が大きく異なります。そこで、「うちの地域にはこんな魅力がある」と自ら戦略的に情報発信をしていく必要性が出てきたのです。
4-2. 自治体が財政難に陥っており外への情報発信が必要となった
下記の「地方財政マップ」を見てみると、財政力指数が低い自治体が多いことが分かります。(オレンジ色が薄いところほど財政力指数が低い)
出典:地方財政マップ
少子高齢化や不景気などさまざまな問題から財政が悪化し、立て直しを図っている自治体も数多くあります。財政難を緩和するには住民の確保や地域に貢献する労働者の確保、そして観光誘致などを積極的に行う必要があります。
そのときに必要となってくるのが、自治体が進んで情報発信をし地域の魅力を伝えていく姿勢です。下記のようにそれぞれのターゲットに合わせて、欲しい情報を提供することで興味を持ってもらえる機会が増えるでしょう。
自治体を活性化させるためにも、戦略的な情報発信の力が必要となってきています。
参考:財政問題から見た地方自治の現状と課題
4-3. 自治体のブランド化が増えている
最近「自治体のブランド化」「地域のブランド化」という言葉を耳にするようになりました。自治体のブランド化とは、地域で生まれた商品やサービスを地域の持つイメージと共に高めてブランド化していくことです。
地域ブランド化を進めることで自治体の注目度があがり、インバウンドや観光誘致、定住促進につながります。
自然発生的にブランド化するには時間がかかり過ぎるため、下記のようにブランドイメージやターゲットなどを戦略的に発信し、自治体が積極的にブランド化を推し進める必要があります。
【地域ブランド化に必要となる戦略的な情報発信】
- 目指すブランドイメージを明確にする
- ターゲット層を絞り、ターゲットにアプローチできる情報発信方法を選ぶ
- どのような魅力があるのか分かりやすく伝える
- 他の商品と差別化できる情報発信を検討する
- どのような計画で浸透させていくのか具体的にする
イメージを一から作りあげる地域ブランド化こそ、情報発信をする力が問われるのです。
【地域ブランド化に成功した事例】
高知県にある馬路村は、1960年代からゆずの栽培を行っていたそうです。生産量増加とともにゆず果汁が余ってしまったことをきっかけに、ゆずジュースの開発に着手。
「商品とともに、村を売る」を目的にしデザインや商品名「ごっくん馬路村」にもこだわりました。顧客に送るダイレクトメールでは田舎ののどかな暮らしが感じられるよう工夫。
2000年ごろからは「月刊ゆずの風新聞」を発行し、ゆず栽培の様子やイベント情報なども積極的に発信しています。
この他にも、テレビCMや対面販売など戦略的に組み合わせた結果、1994年から2006年の間でゆず加工品の売上高が約3倍となりました。
参考:農林水産物・地域食品における 地域ブランド化の先進的取組事例集
まとめ
戦略的に情報発信を行っている自治体の事例をもとに、どうしたら自分の自治体でも取り入れられるかのポイントが掴めたのではないでしょうか。
最後に、この記事の内容をもう一度簡単にまとめます。自治体の戦略的な情報発信の好事例は次の7つ
自治体 |
戦略的な情報発信の概要 |
神奈川県川崎市 |
市の魅力やイメージアップを目的に、情報発信方法を見直し。情報の分類分けやブランドイメージと組み合わせた方法を導入。 |
島根県 |
顔が見えて共感でき、身近に感じられる情報発信を目的に、Facebookを導入。有効活用できるよう研修を実施。 |
東京都杉並区 |
発信する情報の認知度向上、住民の行動変化につなげることを目的に、情報発信方法を見直し。広報課が主導になり広報活動が強化できるよう「伝わる広報シート」でフロー化。 |
岡山県 |
インバウンドを目的に、ガイドのいない個人旅行でも外国人が行動しやすくなるよう、24時間利用できる多言語コールセンターをスタート。チラシ等で周知に努める。 |
東京都立川市 |
情報に興味を持ってもらい住民の行動につなげることを目的に、情報発信方法を見直し。効果測定も実施し、どのような変化があったか分析。 |
宮崎県小林市 |
YouTubeを活用した移住促進PRムービーを作成して情報発信。移住希望者が増える以外にも住民や出身者も自治体の魅力を再確認できた。 |
神奈川県葉山町 |
若い世代にターゲットを絞り、若い世代が良く使うInstagramでの情報発信に注力。 |
好事例に共通している戦略的な情報発信の特徴は次の3つ
1)目的を明確にしてから情報発信をする
2)戦略的な情報発信をして終わりではなく、効果測定をする
3)アンケートやアドバイザーを活用し、外部の声を取り入れる
実際に戦略的な情報発信をするときに押さえたい実施ポイントは次の3つ
1)情報発信ツールのメリットとデメリットを知り、目的に合わせて使い分ける
2)継続して戦略的な情報発信ができる仕組みを整える
3)ターゲットの求めている情報を把握し、寄り添う情報発信を心がける
最後に、戦略的な情報発信が必要である背景は次の3つ
1)地方分権により地方間の競争が激化している
2)不況などの理由から財政難の自治体が多く、自ら情報発信をする必要性が出てきた
3)観光誘致や定住促進のためブランド化を進める自治体が増えている
自治体の戦略的な情報発信の大切さが分かり、より目的やターゲットを絞った情報発信ができるようになることを願っています。