一方通行はNG!多様化した自治体広報の5つの役割と5つの好事例

奈良県の街並み 展望

「地方分権」が広がった今、自治体広報に求められる役割はかなり多くなってきています

自治体広報に求められる役割

一昔前までは、自治体が住民に伝えたいことを知らせるだけで良かったものが、今は「住民が本当に知りたい情報」が何かを捉えて戦略的に発信したり、「地域外の人に向けた情報」をグローバルに発信していくことも必要となっています。

戦略的に自治体広報を進めるためには、以下が重要です。

  • 今まで以上に分かりやすい情報発信を行うこと
  • 自治体本位ではなく、住民からも情報収集をすること
  • 一方的に知らせるだけではなく、住民と一緒につくる視点を持つ
  • 戦略的に情報発信を行うため、行政の意識改革が必要

この記事では、今の時代に求められる自治体の広報が担うべき役割を、大きく5つに分けて具体的に解説していきます。

【役割①】地域住民に、自治体の情報を発信する役割
【役割②】地域住民の声(要望など)を集める役割
【役割③】行政と住民・企業などをつなぐ役割
【役割④】地域外の人に向けた情報を発信する役割
【役割⑤】自治体の魅力を分かりやすくPRする役割

さらに、5つの役割ごとに、自治体で実際に取り組んで実践した5つの成功事例も5つ紹介します。
(埼玉県三芳町/神奈川県相模原市/千葉県流山市/兵庫県豊岡市/神奈川県川崎市)

それぞれの自治体、どんな課題を解決するために、どんな施策を行い、どんな成果が出たのか具体的に解説します。

これを読めば、自治体の広報として何をするべきか具体的にイメージでき、明日からすぐに取り組めるようになるでしょう。

1. 自治体の広報が担うべき5つの役割

冒頭で述べたとおり、時代とともに自治体広報は増えており、単に住民に情報を発信するだけでなく、さまざまな役割が求められています

自治体の行政が決めたことを地域の人々、企業やさまざまな団体、さらには地域外の人々に伝え、正しく伝わったかどうかを確認し、人々の意見を集めて行政に伝えるという役割を、自治体の広報は担っています。

この役割を通して、自治体広報は大勢の人と関わり、コミュニケーションを取ることになります。

自治体の広報の役割はとても幅広く、やりがいのある仕事なのです。

それでは、自治体広報の5つの役割について詳しくご紹介していきます。

1-1. 地域住民に自治体の情報を発信する役割

地域住民に自治体の情報を発信すること、これが自治体広報における最も基本的で大きな役割です。

行政が住民に知らせたい情報をただ伝えるという時代は終わり、これからはただ情報を発信するだけではなく、相手に理解してもらえるようわかりやすく伝えること、できるだけ多くの層に情報が届くように工夫することがとても重要になります。

なぜなら、どんなにたくさんの情報を発信しても、そもそも相手に届いていなければ意味がないからです。そのために、発信した情報を理解し、共感し、行政に協力してもらえるよう、地域の人々に働きかけを行います。

<情報を誰に伝えるのか?>

  • 自治体の地域に暮らす人々

<発信するさまざまな情報>

  • 自治体からのお知らせ
  • 地域の行政で決まったこと
  • 地域での生活に必要な情報
  • 必要な手続きなどの情報
  • 地震災害などの緊急情報 など

<情報を伝えるさまざまな手段>

  • 広報紙
  • 公式ホームページ
  • SNS
  • 防災メール
  • テレビ、ラジオ
  • 防災無線 など

1-2. 地域住民の声(要望など)を集める役割

話す人々

情報を広く知らせるという意味の「広報」に対し、「広聴」という言葉があります。

情報を聴く、情報を広く集めるということも、自治体広報のたいせつな役割のひとつです。

地域に暮らす人たちから情報や意見を集めることで、発信した情報が地域の人々に伝わっているかどうかを確認することができますし、地域外に暮らす人々からも情報をあつめることで、自治体についての客観的な意見を集めることができます。

情報を発信するだけでなく相手からも情報を集める、双方向のコミュニケーションを行うことが大切です。

<どこから情報を集めるのか?>

  • 自治体の地域に暮らす人々
  • 地の地域で暮らす人々
  • 海外で暮らす人々
  • 他の自治体

<収集するさまざまな情報>

  • 自治体からの情報発信が届いているかどうか
  • 自治体の政策や活動に対する意見
  • 自治体への提案
  • 自治体への要望
  • 他の自治体の活動状況 など

<情報を収集する方法>

  • アンケート
  • 意識調査
  • ワークショップ
  • 市民集会
  • モニター制度
  • Web、SNS など

1-3. 人と人をつなぐパイプ役としての役割

人と人をつなぐイメージ図

多くの自治体で、より暮らしやすく、より良い地域にするための「まちづくり」が行われています。

まちづくりのためのさまざまな取り組みを成功させるためには、行政だけでなく、地域の人々、企業や団体、マスコミなどの協力が欠かせません。

広報は、自治体の行政と地域の人々、行政と企業や団体、マスコミなど、さまざまなコミュニティをつなぐネットワークの中心に位置しています。

自治体の広報がコミュニティ同士のパイプ役を務め、コミュニケーションを促すことで、コミュニティ同士のより良い関係を築くことができます。そして、地域外の人々とも積極的にコミュニケーションを取ることで、地域をより活性化させることができます。

自治体の広報は、行政と地域の人々、行政と企業や団体、マスコミをつなぐパイプ役としての役割を担っています。

<パイプ役としての重要な役割>

  • 行政と地域の人々をつなぐ
  • 行政と地域の企業をつなぐ
  • 行政とマスコミをつなぐ

<パイプ役としてさらに期待される役割>

  • 地域の人々と地域の企業をつなぐ
  • 地域の企業とマスコミをつなぐ
  • 行政と他の自治体をつなぐ
  • 行政と地域外の人々をつなぐ
  • 地域の企業と地域外の人々をつなぐ

1-4. 地域外の人に向けた情報を発信する役割

ビデオカメラ

自治体広報のメインターゲットは地域住民ですが、これからは地域外の人に向けた情報発信も自治体広報の大きな役割となります。

インターネットがそれほど発達していない時代は、そもそも地域外の人に情報発信する手段があまりありませんでした。しかし現代では、近隣地域の住民はもちろん、遠く離れた異国の人にも情報を発信することができます。

他の地域に自治体の魅力が伝われば、移住者を増やすこともできます。また、観光者を増やし、インバウンド(訪日外国人旅行客)を獲得することにもつながり、結果的に自治体の収入アップやさまざまな資源の活性化につながります。

<情報を誰に伝えるのか?>

  • 他地域で移住・定住を検討している人々
  • 他地域で観光先を探している日本人
  • 観光先を探している訪日外国人旅行客

<発信するさまざまな情報>

  • 自治体で行っているさまざまな活動を紹介する情報
  • 観光名所やイベントなどの情報
  • 移住者向けの助成金などの支援情報
  • 英語など多言語に翻訳した情報 など

<情報を伝えるさまざまな手段>

  • 広報紙(ホームページやアプリで配信)
  • 公式ホームページ
  • SNS
  • テレビ、ラジオ、新聞、雑誌 など

1-5. 自治体の魅力を分かりやすくPRする役割

北九州の名産品

市区町村、都道府県など多くの自治体が、地域の知名度をアップさせるためのPR活動を行っています。PR活動の中心となっているのが、自治体の広報です。

都市部を除き、人口の流出や少子高齢化による税収の減少、農業や地元産業の担い手が足りず、後継者不足という問題に直面している自治体は少なくありません。

自治体に注目が集まることで地域を活性化し、人口の流出を防ぎ、移住を促すことができます。

また、地域の魅力をアピールすることでインバウンドによる大きな経済効果も期待できます。さらに、住んでいる人びとにも魅力を伝え続けることで、地元への愛着が湧き、長く定住したり地元への貢献度合いが高くなったりという効果もあります。

<誰にPRするのか?>

  • 自治体の地域に暮らす人々
  • 地の地域で暮らす人々
  • 海外で暮らすの人々

<自治体をPRする内容>

▶ 住民/移住者に対して

  • 生活環境の良さ
  • 自治体のサービス など

▶ 観光客に対して

  • 地域の観光地
  • 地域の特産品
  • 地域の産業 など

▶ すべての人々に対して

  • 自治体の魅力
  • 地域のイベント など

<自治体をPRするさまざまな手段>

  • 公式ホームページ
  • SNS
  • テレビ、ラジオ
  • ポスター
  • チラシ
  • イベント など

2. 自治体広報の成功事例【役割ごとの事例5選】

広報の活動内容を工夫することで自治体を活性化し、経済的な発展を促すことができます。その取り組みに成功した5つの事例をご紹介します。

事例1:【住民への情報発信】広報紙リニューアルで街を活性化、財政面でも貢献
事例2:【住民の声を収集】市民の声システムで市民からの要望を収集・分析
事例3:【行政と住民をつなぐ】地域一体となったシティプロモーション
事例4:【地域外への情報発信】観光地の情報を多言語で発信
事例5:【自治体の魅力PR】まちの魅力を伝え続けてイメージアップを図る

2-1.  【住民への情報発信】埼玉県三芳町の成功事例

広報誌Miyoshi

自治体が情報発信する際、メインの方法として使われるのが広報紙です。広報紙の魅力を高めて、自治体の情報が住民に届きやすくなった事例が、埼玉県三芳町の例です。

埼玉県三芳町は人口わずか4万弱の小さな町で、財政的にも余裕があるわけでもありません。

町の広報紙が捨てられているのを見た一人の職員が、税金が無駄になっているうえ、住民に情報が伝わっていないのではないかと考えたことから、広報紙のリニューアルが始まりました。

業者に委託していた広報紙づくりを自分たちで行うようにし、住民が読みたくなる、多くの世代に読まれるような誌面づくりに徹底的にこだわりました。その結果、およそ8割の住民が広報紙から情報を得るようになりました

その結果、広報紙を中心とした活発なコミュニケーションが行われるようになり、広報紙は広告収入がアップ!2015年には、全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞しています。

<工夫した点>

  • 住民が読みたくなる広報紙づくりにこだわった
  • 若者からお年寄りまで、多くの世代に向けた情報発信をした
  • SNSによる発信やWebでの配信を行った
  • 外国の方にも読んでもらえるような工夫をした

<成果をあげられた点>

  • 8割の住民が広報紙から情報を得るようになった
  • 広報紙を中心に活発なコミュニケーションが行われるようになった
  • 業者委託をやめたことで製作コストを削減
  • 読む人が増えたことで広報紙の広告収入アップ
  • 全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞

2-2. 【住民の声を収集】神奈川県相模原市の成功事例

相模原市ホームページ

出典:相模原市ホームページ

神奈川県内で3番目の人口規模を誇る相模原市では、「市長への手紙(市民からの意見・要望)」という、手紙やFAXによる情報収集を行っていましたが、紙ベースのデータのため、担当の課を探したり届けたりするのに手間がかかり、進捗状況の確認や過去の案件を探す作業などがとても難しい状況でした。

そこで、データベースで一元管理するシステム化を検討、パッケージシステムを利用した「市民の声システム」を導入し、幅広い層から住民から意見を集める取り組みを行いました。

「市民の声システム」を含めた相模原市の取り組みは高く評価され、「2014年 CRM ベストプラクティス賞」受賞しました

<工夫した点>

  • 市民の声データを一元管理するシステム化を検討
  • パッケージシステムを利用した(短期間で導入を実現)

<成果をあげられた点>

  • 蓄積されたデータを分析、市政に活かせるようになった
  • 市民の意見を聞く取り組みがさらに広がった
  • 若い世代からも意見を集められるようになった
  • CRM ベストプラクティス賞を受賞

2-3. 【行政と住民をつなぐ】千葉県流山市の成功事例

千葉県 流山おおたかの森S.C

千葉県流山市は都内への通勤に便利なベッドタウンとして発展してきましたが、少子高齢化による人口減が市の財政への大きな打撃となっていました。

そこで、共働きの子育て世帯をターゲットに設定したシティプロモーションを実施します。

子どもの送迎をしやすいよう、駅と保育園をバスで結ぶ保育ステーションを設置、街の中心となる駅の名称は、市民からの意見を集めた親しみやすい駅名を市から鉄道会社に提案、住民主体のイベントの実施などさまざまな取り組みを行いました。

自治体の広報を中心に地域の住民と企業、行政が一体となったことで、流山市は市のブランディングに成功、2万人の人口増を実現しました。

<工夫した点>

  • マーケティングをもとに計画的なプロモーションを実施した
  • PRするだけでなく、暮らしやすい環境整備に力を入れた
  • 行政だけでなく、地域の住民、企業が一体となって取り組んだ

<成果をあげられた点>

  • 人口増により税収がアップ、市の財政が安定した
  • 住民主体のコミュニティが増え、より暮らしやすい街になった

2-4. 【地域外への情報発信】兵庫県豊岡市の成功事例

豊岡市ホームページ

出典:豊岡市ホームページ

兵庫県豊岡市には、小説のモデルにもなった歴史ある城崎(きのさき)温泉があり、観光産業の中心となっていました。

しかし、リピーター以外に客を増やすことができず、一年を通して従業員を雇うことができないため、繁忙期の人手を確保できないことが大きな問題となっていたのです。

そこで、歴史ある観光地の魅力をアピールし、より幅広い観光客に来てもらうためのマーケティング戦略をスタート、インバウンド増加に成功しました。その結果、正社員として従業員を雇えるようになり雇用を拡大、人手不足を解消し、市だけでなく周辺地域全体の活性化につながりました。

<工夫した点>

  • ヒアリングやネットを通して情報を収集した
  • インバウンドに焦点を絞って対策を立てた
  • 英語での情報発信、広告配信を行った
  • 観光地の整備に力を入れた

<成果をあげられた点>

  • 外国からの観光客増加に成功した
  • 一年を通して観光客が集まるようになった
  • 安定した雇用により人手不足を解消
  • 周辺地域と連携したさらなる取り組みにつながった

2-5. 【自治体の魅力PR】神奈川県川崎市の成功事例

川崎市

出典:川崎市公式ホームページ>川崎の魅力・みどころ

自治体が内外問わずに自分のまちの魅力をPRしつづけることは、自治体広報の大きな役割のひとつです。PRというと、移住者や観光客など外に向けた情報発信を思い浮かべがちですが、神奈川県川崎市は、外に向けてだけでなく住民にも「川崎市の良いところ」を発信し続けている自治体の好事例です。

川崎市がこうしたシティプロモーションを始めたきっかけは、川崎市に対してのマイナスイメージを改善し、良好なイメージを持ってもらうことが目的だったそうです。

シティプロモーション活動は、川崎市都市ブランド推進事業、川崎市イメージアップ事業を軸に、市内の住民や企業を巻き込んで、さまざまな取り組みを行っています。

こうした活動の積み重ねにより、一都三県からのイメージ評価が前年よりも上昇するなど、さまざまなイメージアップ効果が実を結んでいます。

<工夫した点>

  • 川崎市の先進性や住みやすい環境をアピール
  • ブランドメッセージを策定し、市のロゴを一新した
  • 毎年川崎市都市イメージ調査を行い、イメージアップの効果を検証
  • 民間企業と協働して川崎市のシティプロモーションを盛り上げた
  • 若者が集まるイベントを開催し、若い世代にも興味を持ってもらった

<成果をあげられた点>

  • 一都三県からのイメージ評価が、前年よりも上昇した
  • 川崎市民の来訪推奨度が、前年よりも増加した
  • ブランドメッセージロゴの認知度が70%以上になった

(2019年のイメージ調査より)

川崎市では毎年かなり詳細な「川崎市都市イメージ調査」を行っており、近隣の一都三県および住民から川崎市がどう見られているかを効果検証しています。

効果測定することで、自治体広報の効果を正しく捉えることができます。調査結果の資料を見るだけでも参考になるはずですので、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。

参考:自治体通信ONLINE/「実体を伝えることがイメージアップに」川崎市シティプロモーション推進室の戦略

3.  自治体の未来にとって広報の役割は非常に重要

街の人々のイラスト

自治体の行政、地域の住民、企業、さまざまな団体などが双方向のコミュニケーションを行い、良好な関係を築くために欠かせないのが、自治体の広報の存在です。

自治体の広報がしっかりと機能し、自治体と住民との間で双方向のコミュニケーションが行われている自治体では、住民一人ひとりが積極的にまちづくりのための活動に参加し、地域一体となったまちづくりが行われています。

自治体の行政、地域の住民、企業、さまざまな団体などがつながり、一体となってさまざまな取り組みを行うことで、地域が活性化し、他の地域からも多くの人が集まるようになるでしょう。

そうすることで、自治体が持続的に発展し、長く存続することが可能になります。

つまり、広報は自治体の未来をつくる上で非常に重要な役割を担っているのです。

まとめ

自治体の広報が担う5つの役割についてご紹介しました。

①地域住民に、自治体の情報を発信する役割
②地域住民の声(要望など)を集める役割
③行政と住民・企業などをつなぐ役割
④地域外の人に向けた情報を発信する役割
⑤自治体の魅力を分かりやすくPRする役割

情報を一方的に配信するのではなく、情報を伝え、相手からも情報を収集する双方向のコミュニケーションをとることが、自治体広報の重要な役割です。

また、自治体にかかわるさまざまな立場の人々をつなぐ架け橋としての役割を担うことで、地域が一体となった、持続的に発展し、長く存続できるまちづくりを実現することができます。

自治体の広報が担う役割を知り、効果的な広報活動に役立てるために、この記事がお役に立てれば幸いです。

DEALは、全戸配布スペシャリストです。
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