近年、従来のような「ただ情報をお知らせする」だけの広報から、民間企業のような「受け手の知りたいニーズにあった情報を発信する広報」にシフトしていこうという動きが活発化しています。
そこで注目されているのが、民間企業のようにニーズをリサーチし、目標を定め、計画を立てる「戦略的な広報」です。
これが成功すれば、住民が知りたい情報を手に入れられるだけでなく、外部に対して地元の魅力をアピールでき、観光客や定住者の増加など地域振興につなげることが可能となります。さらに、成果が得られれば、当然、自治体の歳入確保にもつながります。
この記事では、まず、自治体の戦略的広報を理解するために、以下を解説していきます。
◎「戦略的広報」の意味と、今必要とされる理由
◎戦略的広報の2つの目的(対内的・体外的)
◎戦略的広報を行う11の手段(広報紙、ホームページ、SNSなど…)
そのあと、さらに具体的に、自治体の広報を成功に導くポイントを、事例を交えながら丁寧に説明します。
自治体の戦略的広報を成功させる9つのポイント
①住民の「知りたい」ニーズを把握する
②外部からの視点を取り入れる
③ターゲットを明確に設定する
④目的に合わせて最適なメディアを選ぶ
⑤情報発信・更新は持続的に行う
⑥住民を巻き込んで参加してもらう
⑦SNSでは一方的な情報発信ではなくアクションを促す
⑧グローバルな視点をもつ
⑨メディアといい関係を築く
最後まで読めば、今の広報をどう変えていけばいいのかがわかるはずです。この記事を参考にして、あなたの街がより戦略的に広報を展開していくことを願っています!
※この記事では、自治体の戦略的広報の目的や方法について説明しています。自治体が実際に行っている事例を具体的に知りたい方は、以下の記事がおすすめです。
1. 自治体における戦略的広報とは?
「これからは自治体にも戦略的広報が必要だ」などと言われますが、そもそも「戦略的広報」とは何でしょうか?
そしてなぜ「戦略的広報」が必要なのでしょうか?まずはそれらの基本的な疑問から解き明かしていきましょう。
1-1. 「戦略的広報」の意味
「戦略的広報」とは、こちらから発信した情報を受け取った相手に「何をしてほしいのか」「どうなってほしいのか」という明確な目標を持ったうえで行う広報活動を指す言葉です。
「広報」とは「Public Relations=PR」、つまり「社会との関係性」を築くための活動です。
企業などが、業務内容や営業活動、社会貢献などあらゆる情報を世に発信し、信頼と理解を得ることを目的に行うものです。その広報活動を、「戦略的に=目標を定め、それを達成するための計画を立てて」実施しようというわけです。
主に民間企業のマーケティング部門などで使われていましたが、自治体の地域振興、地方創生の必要性が叫ばれるようになると、民間同様に公共団体も「戦略的に広報を行わなければ」と言われるようになりました。
1-2. なぜ自治体に「戦略的広報」が必要なのか
民間企業の広報であれば、
「企業のイメージをアップしたい」
「信頼度やブランド力を高めたい」
「事業内容を理解してほしい」
「新製品・新サービスを周知したい」
といった明確な目的を持って情報発信します。
そのために、どんな広報をすれば興味を持ってもらえるのか、魅力が伝わるのか、多くの媒体が取り上げてくれるのか、作戦と計画を立てて臨んでいます。
一方で、自治体の広報は、
- 住民のため、地域振興のためにどんな取り組みをしているか
- この地域にはどんな魅力があるか
などを、自治体の内外に向けて発信するのが責務です。
ですが、従来の自治体広報は、情報を住民にただ「お知らせ」するだけになりがちでした。その結果、さまざまな問題や課題が生じてきたのです。
例えば、
◾️広報誌にとりあえず掲載して、「お知らせしました」という体裁だけ整える
→「アリバイ広報」「やりっぱなし広報」とも呼ばれ、本当に住民に伝わること、周知を行き届かせることを目的としていない
◾️住民の知りたいニーズと合っていない
→住民が「何を知りたいか」、どんな公共サービスを「必要としているか」などについて情報収集を十分にせず、自治体側が「知らせたい」ことを広報してしまう
◾️住民が広報された情報に気づかない
→目につきやすい工夫や、興味を引きつける発信のしかたができていない
など、自治体内の住民や企業向けの問題点もあれば、
◾️地域の魅力や名所、特産・名産などをアピールできていない
→観光客や移住者の呼び込み、企業誘致などの地域振興につながらない
◾️マスコミといい関係を築けておらず、対応もうまくない
→マスコミを通じて自治体のアピールをしたいのに、なかなか取り上げてもらえない
何か社会的な問題が起きたときにマスコミ対応が悪く、事をうまく収められない
といった対外的な課題もあります。
これらを改善し、住民に伝わる広報、地域振興につながる広報を目指すため、自治体も「戦略的広報」に取り組み必要があるのです。
2. 自治体における戦略的広報の目的
「戦略的広報」を実践するためには、明確な目標・目的を定めることが重要です。しかし、自治体の広報の目的とはどんなものがあるのでしょうか?
自治体の場合は、情報を届けたい相手は
-
-
【対内的】自治体に住んでいる住民・地元企業など
- 【体外的】自治体の外の人・企業(観光客、以前住んでいた人、移住希望者など)
-
に大別できます。
そこでこの両者に向けて情報発信する目的の主なものを表にまとめてみました。
自治体内(住民・地元企業など)向けの目的 |
自治体外向けの目的 |
---|---|
行政サービスを周知する |
認知度とイメージをアップする |
では、それぞれについて説明していきましょう。
2-1. 対内的な目的
自治体の住民や企業など、内側に向けて広報する目的には以下のようなものがあります。
行政サービスを周知する
自治体の役目として、住民に対して行政サービスの情報を知らせたり、利用を促したりする必要があります。
具体的には、以下になります。
- 住民に報告する義務のある情報:予算に関する報告、税金や国民健康保険の納付に関するお知らせなど
- 住民の利益になる情報:行政が主催・関係する講座やイベントの告知、公共施設のサービス案内など
政策を周知する
自治体の行なっている政策について、現状どんな課題があるか、どのような取り組みを行なっているかを広く公開することも大切です。
ただ知らせるだけでなく、住民が当事者意識を持ち、自治体運営に参加できるような情報発信が求められます。
防災情報・災害情報を共有する
行政サービス情報の中でも、防災情報や災害情報は非常に重要で、自治体住民の関心も高いものです。
避難場所、ハザードマップなど日頃から周知が必要な情報と、地震、台風などの際の災害情報について、伝わりやすく発信する必要があります。
2-2. 対外的な目的
一方で、自治体の外に向けての情報発信も重要です。
適切な情報発信によって人や企業を呼び込み、地域振興につながる広報を行いましょう。
そのためには、住民向けに発行される広報誌などとは別に、ホームページを充実させたりSNSを活用する、テレビやラジオなどマスメディアに取り上げてもらう、イベントを行うなどの手法が有効です。
認知度とイメージをアップする
自治体の個性と魅力をアピールして、認知度を高め、イメージをアップさせることが第一です。
ホームページやSNSといったインターネットを活用したり、独自のイベントを企画したり、マスコミにニュースリリースを送付して取材を促すなど多角的な発信を行うとよいでしょう。
人口を増やす
地方創生、地域振興を目指す際の大きな課題のひとつが、人口の減少を抑えることです。
住民が他の自治体に流出するのを食い止め、移住者を呼び込むことで人口を増やしたいと考えている自治体も多いでしょう。そこで、その地域ならではの魅力、暮らしやすさなどをアピールする必要があります。
企業や施設を誘致する
地域経済の活性化のためには、企業や各種施設を誘致することも重要です。
企業側から特に求められているのは、自治体からのサポート体制に関する情報ですので、補助金制度や税金の優遇などがあれば積極的に広報したいところです。
また、他の自治体との差別化も必要です。立地、人的資源、インフラなど、特に有利な条件があれば強くアピールしましょう。
名所などをアピールして観光客を呼び込む
魅力的な名所や文化、食などの情報を発信することで観光客を呼び込むこともできます。
「地域には強力な観光資源がない」と悩んでいる自治体もあるでしょうが、近年では新たな観光資源を発掘したり創出する取り組みも盛んです。
B級グルメの開発、個性的なイベント企画などと広報がうまくかみ合えば、観光客の急増も望めるでしょう。
地域の特産物・名産品の販売を促進する
農林水産業の振興のためには、特産・名産品の販売促進も重要です。野菜や果物、食肉や魚介類などをブランド化して売り出すことで、全国的に注目を集めることも可能です。
これらの中からそれぞれの自治体に合った目標を随時定めて、効果的に広報していくことが求められます。
3. 自治体における戦略的広報 11の手段
「誰に何を伝えたいか」という目標が定まったら、いよいよ広報の計画を考えます。
まず、戦略的広報に使える手段にはどんなものがあるのでしょうか?
公益財団法人日本都市センターが実施した「都市自治体の広報に関するアンケート調査」(2012年)によると、自治体が活用している広報ツールは以下の通りでした。
広報誌 |
99.8% |
公式ホームページ |
99.8% |
パブリシティ(マスコミ等への情報提供など) |
96.0% |
職員による出前講座 |
74.9% |
自治会等への回覧板・地域の掲示板 |
73.6% |
チラシ |
66.1% |
広報テレビ・ラジオ番組 |
63.8% |
ポスター・広告塔 |
60.9% |
メール配信サービス・メールマガジン |
57.5% |
動画コンテンツの配信(首長記者会見や議会中継等) |
52.7% |
ソーシャルメディア(ツイッターやフェイスブックなど) |
45.8% |
マスコミへの有料広告 |
38.1% |
デジタルサイネージ |
25.3% |
その他(記述:防災無線やテレビデータ放送等) |
10.3% |
これらについて、どんな利用ができるのか見てみましょう。
※似た媒体や同じカテゴリーのものはまとめて説明しています。
3-1. 広報誌などの印刷物
広報誌をはじめとした各種印刷物は、代表的な広報手段です。
- 広報誌
- 子育て、防災などテーマを絞った冊子、パンフレット
- 便利帳(行政サービスの利用のしかたや窓口の連絡先などが掲載された保存用冊子)
- ガイドブック、ガイドマップ(自治体内の施設などを掲載した地図や冊子)
- チラシ、ポスター
などがあります。
特に広報誌は定期的に刊行され、市区町村ではほとんどの世帯に配布されるため、自治体が取り組み中の施策や計画など、住民に周知すべき情報を掲載する重要なツールです。
自治体によっては点字版や音声版も発行してひとりでも多くの住民に伝わるよう工夫していますが、若い人の閲読率が低い傾向があるため、読みやすく興味を引く誌面づくりが課題となります。
自治体が届かない世帯にも読んでもらえるよう、「マチイロ」「マイ広報紙」などのアプリで広報紙を配信する方法もあります。
3-2. ホームページ・メールマガジン
近年、自治体広報で重視されるようになったのがインターネットです。
- いつでもどこでも情報にアクセスできる(利便性)
- 従来の広報誌などに比べて、緊急性のある情報をただちに発信できる(即時性)
- 紙媒体や放送媒体に比べて低コストで展開できる
- 広報誌を読まない若い世代にもアピールできる
- 自治体からの一方的な情報発信だけでなく、住民からのコメントを得られる(双方向性)
などの理由で、戦略的広報を目指すためには不可欠な情報ツールだと言えます。
具体的には、以下のような利用が考えられるでしょう。
◾️公式ホームページ
→住民はもちろん、外部の人でも必要な情報に簡単にたどり着くことができるのが利点です。
戦略的に展開するためには、見やすいデザイン、情報が探しやすいサイト設計、わかりやすい文章、絞り込みやすい検索機能などの工夫が必要です。
◾️メールマガジン
→住民に直接情報を送信できる広報ツールです。
対象は自分の意志でメルマガ登録した人たちなので、内容に対する関心が高めなのが特徴です。
インターネットでの広報にはまだまだ新しい可能性が期待できますが、一方で民間に比べて活用しきれていない自治体が多いようで、今後の課題となっています。
3-3. パブリシティ(マスメディアへのPR)
新しい取り組みを始めるときや、大きなイベントやキャンペーンを行うときなどに、マスコミ向けに「ニュースリリース」などを配信して告知します。
これを見たマスコミが、一社でも多く取材して世間に広く発信してくれることを狙うものなので、興味を引くようなリリースづくりが重要になってきます。また、定期的な記者会見や記者発表、報道機関への資料提供も積極的にしていくことが必要です。
3-4. 出前講座
「出前講座」とは、自治体の職員が講師になって、自治体の行政について取り組みなどを説明するセミナーのことです。
希望する住民、団体から自治体に申し込みをして講師を呼ぶという形で開かれます。
広報活動の中でも、住民と直接対話ができる機会なので、「知らせる」と同時に「住民のニーズを知る」のにも役立ちます。
3-5. 回覧板・掲示板
地域住民にもっとも身近な広報手段のひとつです。
特に回覧板は、回ってきた文書を読んだら押印して次の家に回すなどの方法を取っている地域もあり、確実に目を通してもらいたい情報には有効だと考えられます。
3-6. テレビ・ラジオ
地元のテレビ局やラジオ局、コミュニティラジオなどの媒体で、情報番組を放送している自治体も多いようです。
自治体の長が出演して行政の取り組みを直接住民に説明したり、地域の産業、イベントなどの情報を楽しく紹介したりと、ターゲット層によってさまざまな切り口が考えられます。
3-7. PR動画配信(YouTubeなど)
YouTubeなどにチャンネルを開設し、動画で情報を配信する自治体も増えています。広報誌の内容をよりわかりやすく噛み砕いたり、映像つきで説明したりできるので、受け手側のより深い理解につながります。
また、名所や名産品、祭りやイベントなどを視覚的に紹介することもできるので、魅力も伝わりやすいでしょう。
自治体での動画活用については、別記事「話題の自治体PR動画15選!メリット・注意点・費用・依頼先を解説」にくわしく書かれていますので、そちらもぜひ読んでください。
自治体のPR動画について知りたい方におすすめ
3-8. SNS(Twitter・Facebookなど)
さらに、インターネットでの広報手段として重要なのがSNSです。
TwitterやFacebook、Instagramなどで公式アカウントを開設している自治体が増えてきていますが、ホームページやメールマガジンなどとの違いは受け手との双方向コミュニケーションが取れる点です。
ただ、今のところ一方的に情報を掲載するだけの自治体が多いという残念な状況があります。
SNSを広報に利用するメリットは、
- 無料で情報を発信できる
- 住民の意見、不満、要望などを、コメントという形で直接吸い上げられる
- リツイートやシェアという形で情報が広く拡散される
ということですので、それを最大限に活かせるような投稿を工夫する必要があるでしょう。
例えば、下記のような方法が考えられます。
- 地域内の名所の絶景写真、ここでしか見られない風景写真などを掲載する
- ご当地キャラクターの名前でアカウントを作成し、地域情報をキャラクターから発信する
- SNSでフォトコンテストなどを開催して、受け手側からのアクションを喚起する
これが成功すれば、海外から多くの観光客を呼び込むことも可能なので、積極的に活用したいツールです。
3-9. マスコミへの有料広告(雑誌・TVなど)
主に自治体外部に向けての広報のため、雑誌やテレビなどに広告を掲載する方法で、観光地としての魅力、農水産物のアピールなどに利用されています。
ニュースリリースで取材してもらう場合は無料ですが、こちらは有料である点が異なります。
実は、2018年10月から1年間で15の自治体が首都圏でテレビCMを放映しましたが、これは過去最多でした。中でもタレントを起用してブランド米を宣伝した県が7つもあったそうです。
テレビなどでの広告は、費用はかかっても効果が大きいものと言えます。
3-10. デジタルサイネージ
デジタル技術によってモニターやプロジェクターに画像や文字を映し出すデジタルサイネージは、さまざまな場所で利用されています。
自治体でも、庁舎内の窓口で待っている人に呼び出し番号を表示したり、入り口で館内案内に利用したりと活用している例が見られます。
また庁舎以外でも、駅ビルなどに設置された巨大モニターや、道路に設置された案内板など多種多様なものがあります。自治体からの各種お知らせはもちろん、災害情報などにも利用できるため、これからますます広がっていきそうです。
3-11. その他
このアンケートにはありませんが、以下のものも広報手段として有効に利用することができます。
イベント
その地域ならではの名所や文化、歴史や偉人、特産品やグルメなどをPRするには、イベントも効果的な広報ツールになります。
- 伝統的な祭りや行事を盛り上げる
- 伝統文化に触れる機会(伝統工芸の体験、展覧会など)を作る
- 歴史や偉人にちなんだイベントを立ち上げる
- 郷土料理やB級グルメを誰でも味わえるイベントを開催する
といった取り組みをしている自治体がたくさんあります。
イベントの企画次第では、地域の魅力を広く伝えることができると同時に、新たな観光資源の創出にもつながります。
そのためには、自分の住む地域には他にはないどんな特徴があるか、あらためて洗い直すことが重要になるでしょう。
広報コーナー
役所の庁舎、図書館などの公共施設、駅など人が集まる場所に、自治体の広報コーナーが設けられ、自治体の情報を展示していることがよくあります。
また、地域内各所に設置してある広報掲示板にお知らせチラシを貼り出したり、「情報プラザ」などに資料やパンフレットを置いて自由に持ち帰れるようにするなども含まれます。
4. 自治体の戦略的広報を成功させる9のポイント
ここまでで、自治体における戦略的広報の「目標」と「手段・方法」がわかりました。
では、実際にアクションに移す際に、どんなことに注意すれば効果的な広報活動ができるのでしょうか?最後に戦略的広報を成功させるポイントを9つ挙げておきましょう。
4-1. 住民の「知りたい」ニーズを把握する
住民が何を知りたいのか、必要とされている情報は何か、ニーズを正しく把握しなければなりません。
従来の自治体広報ではこの視点が欠けていて、自治体側が「伝えたい」情報を発信してしまっていたために、住民のニーズとの間に齟齬が生じていました。
それを改善するのが、戦略的広報の第一歩です。
具体的には、
- 公式ホームページで住民からパブリックコメントを募る
- 住民アンケートを実施する
- 住民によるモニター制度などを設けて直接意見を聴き取る
- SNSで意見を集める
などの方法を利用して、住民の生の声を広く集めましょう。
<事例紹介>
神奈川県川崎市は、地域のイメージアップを目標にさまざまな取り組みをしており、その一環として住民へのアンケートを定期的に行っています。アンケートでは、住民の定住意向や生活環境への評価、市政や施設への満足度などを具体的な項目ごとに調査しています。
4-2. 外部からの視点を取り入れる
住民の声を集めると同時に、外部からの意見にも積極的に耳を傾けることが重要です。
というのも、内部にいる人たちには「当たり前」になっていることが、外部の視点から見ると「重大な問題」であったり、逆に「特筆すべき魅力や個性」として映ったりする場合があるからです。
例えば、「うちの市には特に美しい名所もないし、変わった祭りや文化、おいしい料理もない」と困っている自治体は、住民ではない外部の人に意見を求めてみましょう。
「この食材をこんな風に食べるのはよそでは見たことがない」「市内に◯◯の施設がこれほど多いのは珍しい」など、埋もれていた個性を再発見できるはずです。
戦略的広報に取り組む自治体の中には、民間の広告代理店や企業の広報経験者を広報課に登用する例もあります。
外部の人と一緒にあらためて地域の特徴を徹底的に洗い直すことで、今まで気づかなかったアピールポイントの発見、創出を目指せるのです。
<事例紹介>
茨城県は2015年に任期付き職員として、大手半導体企業インテル出身のエンジニア取出氏を広報監というポストとして招き入れました。取出氏が手掛けた茨城県の動画サイト「いばキラTV」は大ヒットし、再生回数やチャンネル登録者数が全国1位になるなど大きな成果を挙げました。
4-3. ターゲットを明確に設定する
「誰に伝えたいのか」、つまり広報のターゲットを定めることも必要です。
従来型の「お知らせするだけ」の広報では、ターゲットを特に定めず「住民向け」「地元企業向け」など漠然と発信していたのではないでしょうか?
しかしそれでは情報が散漫になってしまう上に、受け手側も多くの情報の中から自分に必要な事柄を探し出さなければならないなど、相手に届きにくくなってしまいます。
情報をただたれ流すのではなく、伝わるように発信するには、まずターゲットを絞り、その人が必要としている情報が何かを選別しなければなりません。
例えば同じ子育て情報でも、「妊娠中でこれからさまざまな準備をしようとしている人」向けと、「出産して新生児を抱えている家庭」、「子どもを保育園に預けて働きたいと思っている母親」とでは、必要とする情報や知りたい知識はまったく違いますよね。
あるいは、「妊娠中で、これから子どもが保育園・幼稚園に入るまでに必要な情報はすべて先に知っておきたい」という人もいるでしょう。
そこで戦略的広報では、目的に合わせてターゲットを絞り込みます。性別、年齢層、居住区域などの属性から、環境、抱えている疑問や悩みといった現在の状況まで、突き詰めていくのです。その際は、住民から集めた生の声や統計データなどを参考に客観的に分析してください。
単なる印象などにもとづいて考えると、ターゲット像を見誤る恐れがあるので注意しましょう。
4-4. 目的に合わせて最適なメディアを選ぶ
「どのメディア、ツールを使って発信するか」という広報の手段を選定します。
「なるべく多くの人に伝えるためには、できればすべての手段で広報したい」と思うでしょうが、コストや手間の制限があるはずです。
そこで、ターゲット層の目にもっとも触れやすく、伝えたい情報をもっともわかりやすく表現できる方法を選ぶことが必要です。
例えば、「高齢者向けの情報を伝えたいが、うちの市ではまだインターネットを利用している高齢者は全国平均よりだいぶ少ないから、ネットよりも紙媒体中心で行こう」、「子どもがいる若い夫婦向けに周知したいので、◯%が閲覧しているSNSとメルマガをメインにしつつ、小冊子も作って児童館や保育施設などに置いてもらおう」など、データをもとに絞り込んで選定します。
<事例紹介>
写真投稿がメインのSNS「Instagram(インスタグラム)」で多くのフォロワーを獲得している神奈川県葉山町。葉山町が情報発信のツールにInstagramを選んだ理由は、若い世代の移住・定住者を増やすためでした。若い世代に見てもらうために、その世代が多く使っているSNSをあえて選んで注力したといいます。このように、目的に合わせて最適なメディアを選ぶ視点はとても大事です。
4-5. 情報発信・更新は持続的に行う
情報の発信や更新は単発的にではなく、頻度を上げて持続的に行なっていくことが大切です。
例えば広報誌の発行頻度やホームページの更新頻度が少なければ、「情報が古いから役立たない」といったネガティブな評価を招く恐れがあります。
SNSも投稿数が少ないと、閲覧数も増えにくいでしょう。
定期的、または頻回に情報を追加・更新していれば、認知度や関心度が上がっていきますし、「何か新しい情報はあるかな?」と閲読してもらえる可能性も高まります。
では、どのくらいの頻度が最適なのでしょうか?
公益社団法人日本広報協会による「市区町村広報広聴活動調査結果ー広報紙」(2015年度抜粋)によると、広報紙を年12回発行している自治体がもっとも多く、73.6%にものぼっています。
一方で、自治体SNSの更新頻度に関する統計は見当たりませんでしたが、Facebookのフォロワー数が多い自治体の場合、毎日投稿しているアカウントや2~3日に1回投稿する例が多いようです。
これらを参考にしつつ、住民アンケートで「どれくらいの頻度が最適か」をリサーチするなどして、頻度を決定するとよいでしょう。
4-6. 住民を巻き込んで参加してもらう
自治体の広報活動を役所内で完結させず、住民にも参加してもらうことには大きな意義があります。
「住民がどんな情報を必要としているか」というニーズと、「この地域の魅力は何か」の実感を持っているのは、何といっても地域住民自身です。
情報を発信する際にも、その意見を活かせるような仕組みを作るとよいでしょう。また、広報誌や冊子、ポスター、SNS、イベントなどさまざまな場面で、住民自身に前面に登場してもらうのもいい方法です。
例えば、「子育てしやすい街」をアピールするキャンペーンで、実際に自治体内に住んでいる親子をモデルにしてポスターや冊子を作成するなどです。
そうすると、住民の間にも「一緒に地域を盛り上げていこう」「広報していこう」という雰囲気が醸成され、より魅力的な自治体づくりへの気運も高めることができるようになります。
<事例紹介>
住民に参加してもらいやすい広報といえば、広報紙づくりです。東京都立川市、茨城県古河市、群馬県邑楽町など多くの自治体では、広報紙に掲載する記事の取材や原稿作成などの作業に住民が参加し、紙面づくりを担っています。
4-7. SNSでは一方的な情報発信ではなくアクションを促す
SNSを利用する自治体は増えていますが、前述したように、一方的に情報を発信するだけというケースも多いようです。
それでは広報誌やホームページと変わらず、双方向のコミュニケーションが取れるというSNSならではの利点を活かすことができません。
「3-5. SNS」の項でも例を挙げたように、
- 地域内の名所の絶景写真、ここでしか見られない風景写真などを掲載する
- ご当地キャラクターの名前でアカウントを作成し、地域情報をキャラクターから発信する
- SNSでフォトコンテストなどを開催して、受け手側からのアクションを喚起する
といった工夫をして、シェアやリツイートによる情報拡散を狙い、コメントや反応を吸い上げるようにしましょう。
また、各SNS内で自治体についての投稿を検索するのもおすすめです。Twitterであれば何についてのツイートが多いか、FacebookやInstagramならどんな写真が投稿されているかをチェックしてみてください。
住民が自治体の何に関心を持っているか、観光客がその地域のどこに魅力を感じたかなど、新しい発見が得られるかもしれません。
<事例紹介>
SNS運用に力を入れている自治体・地域アカウント
◆Twitter(ツイッター):千葉県(チーバくん)/埼玉県庁/茨城県など
4-8. グローバルな視点をもつ
近年では、外国人住民が増加したり、訪日観光客の呼び込みに熱心に取り組んだりしている自治体も多いでしょう。
そこで、広報にもグローバルな視点が必要になってきます。
- ホームページをはじめとした広報ツールを多言語対応にする
- 外国人が必要としている情報、外国人ならではの関心事は何かを把握して情報を発信する
- 外国人観光客が魅力を感じるような、日本らしい風景や文化、他にはない体験や食などを積極的にアピールする
といった、外国人向けの戦略が重要です。
<事例紹介>
2012年~2018年まで7年連続で訪日客数が増えている広島県。7年の間にその数は4倍に増えました。現在、広島県は外国人観光客をさらに増やすため、「VISIT HIROSHIMA」という多言語対応のWebサイトを作り、1泊2日の観光プランを紹介する動画など、外国人に魅力的な情報を配信しつづけています。
参考:インバウンドNOW
4-9. メディアといい関係を築く
新聞やテレビ、雑誌といったマスメディアに対する従来の自治体広報は、
- ニュースリリースを一方的に送信するが、取り上げてもらえるような働きかけは特にしない
- 災害や事件、不祥事などがあった場合、記者会見などでうまく対応できず、問題をうまく解決できなかったり炎上したりしてしまう
といった課題、問題を抱えているケースがありました。
戦略的広報では、これらの問題を解消するために、マスメディアとは常日頃からいい関係を構築することを重視します。
広報担当者は、
- マスメディアに対する苦手意識、必要以上の警戒心は捨てる
- 各メディアの自治体担当者とは良好なコミュニケーションを築き、取材に協力的な姿勢を示しておく
- つねに情報を共有する
- 災害などの緊急対応が必要になった場合に備えて、迅速に情報公開、対応できる仕組みを構築する
- マスメディアへの対応力をアップするため、研修を行なったりセミナーに参加したりする
といった改善を行いましょう。
自治体の広告について知りたい方におすすめ
まとめ
いかがでしょうか?
戦略的広報とは何か、自治体においてはどう展開していけばいいのかがよくわかったかと思います。
ここでもう一度、記事の内容をおさらいしてみましょう。
◎戦略的広報とは、「情報を受け取った相手に、「何をしてほしいのか」「どうなってほしいのか」という明確な目標を持って行う広報活動」のこと
◎自治体における戦略的広報の目的は、
<対内的な目的>
- 行政サービスを周知する
- 政策を周知する
- 防災情報・災害情報を共有する
<対外的な目的>
- 認知度とイメージをアップする
- 人口を増やす
- 企業や施設を誘致する
- 名所などをアピールして観光客を呼び込む
- 地域の特産物・名産品の販売を促進する
◎自治体の広報を成功に導く9のポイント
- ①住民の「知りたい」ニーズを把握する
- ②外部からの視点を取り入れる
- ③ターゲットを明確に設定する
- ④目的に合わせて最適なメディアを選ぶ
- ⑤情報発信・更新は持続的に行う
- ⑥住民を巻き込んで参加してもらう
- ⑦SNSでは一方的な情報発信ではなくアクションを促す
- ⑧グローバルな視点をもつ
- ⑨メディアといい関係を築く
以上を参考にして、あなたの街を戦略的に広報し、住みやすい街づくりや地域振興に役立つことを願っています!